Crecer FA

岡山県瀬戸内市で活動しているスペインメソッドサッカースクール

柴犬の大脱走 シーズン1

柴犬の大脱走シーズン1

プロローグ

その柴犬の名前は、ちゃい。

性別は、女。

 

朝晩2回の散歩が大好きで、散歩の時間になると、窓を覗いてきて、

「おーい!散歩の時間だぞ。」

と言わんばかりにガリガリと窓をひっかいてくる。

 

お散歩リードに付け替えると、勢いよく駆け回り、飼い主を引っ張りながら庭を飛び出していくのだ。

 

ご飯は、柴犬用のドッグフード。

欲しいときに食べ、いらない時は食べない。

ご飯を嬉々として食べない犬が初めてだったので驚きだ。

尚、チューインガムは、食べずに庭を掘って、そっと埋める模様。

 

躾は、ほとんどしていない。

 

そんな柴犬が、我が家に来てから数か月後の事であった。

 

リードの繋ぎミス

朝、お散歩に行くために柴犬のリードを付け替えて

「さぁ行こう!」

と、なった瞬間にいつものように勢いよく元気に庭を駆け回る。

いつも通りの光景だ。

 

(うんうん)

ちゃいは、本当に散歩が好きだな。

テンション爆上げだ。

そして、そのまま庭から飛び出していく柴犬。

 

(このまま私も引っ張られ・・・・・引っ張られ・・・・・・ない?)

柴犬に引っ張られることなく、飼い主の手に残るダランと垂れた空しいリードがそこにあった。

 

一瞬、何が起こったか分からなかった。

 

飼い主を置いて、柴犬だけが庭から飛び出していったのだ。

 

「・・・・え?」

 

「ちゃい?」

 

気づくのが遅れて数秒。

急いで追いかけるも・・・・・

すでにチャイの姿は見当たらなかったのだ。

 

どっち方面に走っていったかも分からない。

辺りを懸命に探すも見当たらない。

 

朝だったので、息子の学校の時間もあり、一旦捜索をやめる飼い主。

警察に電話し、息子を送り出した後、届け出ることにした。

 

見つからない柴犬


合間に気を付けながら捜索するも見つからず。

警察に届け出ても捜索してくれる訳ではないので、最悪は、もう帰ってこないかもしれないと覚悟をしていた。

 

どれだけ待てばよいのか?

見つかるのか?

見つからないのか?

そもそも生きているのか?

 

リードの付け替えミスさえしなければ・・・・

後悔から胸が締め付けられる。

 

その夜の事

柴犬ちゃいとの付き合いは、まだ、数か月。

躾もほとんどしてないその柴犬は自由奔放そのもの。

 

我が家のことを分かっているのか?

名前さえも覚えていないのでは?

(大丈夫だろうか・・・?)

いらない心配も入り混じり、不安を抱えながら時間が過ぎていった。

 

そして、その晩、皆が寝静まる頃、静寂を打ち破りひと際大きい音が室内に鳴り響いた。

 

その音の元をたどると、携帯電話だった。

 

私のお家はどこですか?

携帯電話のホーム画面には、知らない番号からの電話だった。

 

いや、知っている。

 

警察署からだ。

 

飛び起きて、電話に出ると

 

「もしもし?○○さんの携帯電話でしょうか?」

「はい。そうです。」

「ただいま、ちゃいちゃん出頭されました」

 

「・・・・え?」

 

「柴犬のちゃいちゃんが、警察署に出頭されました」

 

「・・・・・・え?」

 

誰かが捕まえて、警察署に連れてきてくれた。

その時は、そう思った。そう思っていたのだ。

 

その男性警官の話を聞くまでは。

 

深夜の警察官

時は、少しさかのぼる。

そこは市の警察署。

交番ではない。

深夜、若い男性警察官は、カウンター越しに仕事をしていた。

何をしていたかは分からない。

きっと業務だろう。

 

男性警官のカウンター越しには、警察署の正面玄関がある。

その正面玄関は、自動ドアであり、ガラス製だ。

 

そのガラス越しの景色は見慣れたものだ。

 

男性警官は、その見慣れた景色を見つめていた。

夜の景色は深い黒に遠くの街灯がささやかな光を届けている。

ただ昼間と違い人の往来もなく味気ない。

 

そんなガラス越しの景色は変わらないのに、微かに空気を揺らし、静かな音を立てて自動ドアが開いた。

深夜ということもあり、その音は、妙に耳に響く。

 

誰もいないのに何故?

 

男性警官は、開いたドアをポカンと眺めた。

その時間は一瞬だったが、長く感じた。

 

我に返り、椅子から立ち上がり、カウンターから身を乗り出した。

 

心霊の類かと、内心穏やかではなかったが、その犯人を見つけ、安堵した。

一匹の柴犬が、キョロキョロしながら、トコトコ歩いてこっちへ来ている。

 

男性警官を見つけた柴犬は、嬉しそうな飛行機耳をし、尻尾を振り乱しながら、男性警官の足にしがみついた。

 

ひとしきり可愛がってもらった柴犬は、

 

「私・・・・迷子なんですけど?」

 

・・・・そんな顔をしていた。

 

再会

一日中心配していた飼い主は、深夜であるにもかかわらず警察署に一目散に向かった。

警察署のガラス越しに茶色い犬がいる。

自動ドアを抜けると、愛犬との感動の再会だ。

 

ちゃいは、男性警官の横で大人しく座っていた。

 

「ちゃい~」

 

両手をいっぱいに広げて、駆け寄る飼い主。

 

 

 

しかし、男性警官の足にしがみつき、後ろに隠れてこちらを見るちゃい。

 

 

「・・・え?」

 

一瞬の間があったが、飼い主を認識し観念したちゃいは、捕獲され、不服そうな顔で、リードに繋がれました。

感動の抱擁はおあずけ・・・。

 

「なんでそんな顔しとん(´・ω・`)」

 

帰る時ちゃいは、名残惜しそうに男性警官を振り返っていました。

こうしてちゃいの大脱走は、一日で幕を下ろすのでした。

 

あとがき

男性警官から自ら出頭してきた経緯を聞き、大いに笑いました。

飼い主を待っている間も男性警官にピッタリとくっついて離れなかったそうです。

 

しかし、不思議なこともあるものです。

犬が警察署の自動扉を開けて中に入り、警察官の横でリラックスするなんてことがあるんでしょうか?

 

実際にあった話ですし、実は、シーズン2にもつながって来るんですが。

柴犬って警戒心強いんじゃなかったかな?