ポジショナル・プレーとリレーショナル・プレーを比較検討していきたいので、今回は、まずリレーショナル・プレーについて書いていこうと思います。
リレーショナル・プレーとは?
リレーショナルなプレーは、私たち日本人に馴染みのあるプレーです。
これをパスサッカーと呼ぶ方々もいますし、日本にあるほとんどのチームがこのリレーショナル・プレーです。
では、どんなプレースタイルなのか?メリットデメリットも含めて書いていこうと思います。
リレーの意味
リレー(英語表記)relay
- 順繰りに受け継いで次へと送り伝えて行くこと。
- 中継。
リレーショナルプレーの構造
リレーショナルなプレーをする為の7つの原理原則があるので、紹介します。
- toco y me voy(パス&ゴー)
- tabela(壁役)
- escadinha(階段:斜めのポジショニング)
- corta luz(囮:スルー)
- tilting(偏り:密集)
- defensive diagonal(逆サイドバックのポジショニング)
- the yo-yo(同レーン同サイドでのボール出し入れ)
上の説明として分かりやすいサイトがあるので貼っておきます。
参考サイト:“リレーショナル・プレー”とは何か?~7つの戦術パターンから新たなパラダイムを読み解く~ | ディ アハト
ということで、この解説は、このサイトにお願いするとして、すっ飛ばします。
比較する為に同じ言葉で言語化
リレーショナル・プレーの構造は、ポジショナル・プレーをする時の言葉でいうとどうなるのか?どんな構造となるのか?
①toco y me voyとtabelaは、一括りにPared(壁パス:ワンツー)かなと。
ボールに関係する二人の動きと言う意味で、一括りとしました。
ただし、単純にワンツーするという意味ではなく、違うシチュエーションへの発展もありますので、この限りではありませんが、壁役とパス&ゴーを使うことです。
②escadinhaとtiltingは、チーム全体がApoyo de Emergencia(緊急時のサポート)の状態となります。つまり、ボールを基準に自分のマークよりボール側にポジショニングする事。
参考記事:サポート(緊急時と三人目) - Crecer FA
その中で固定サポートのtabela(壁役:固定サポート)に対して、自由にescadinha(斜めのポジショニング)を取っていきます。ボールに対して、短い距離の数的優位を作る事。
逆サイドバックのポジショニングであるdefensive diagonalもこれに含まれますね。
③corta luzは、②でライン3(ボール含めて3人が直線)になった時に2人目がボールをスルーし、3人目にボールを届ける事。
the yo-yoは、ボールの動きの事なので置いときます。
使っている優位性は、数的優位と社会的優位となります。
ただし、後で書いていきますが、重要となる部分はもう一つ質的優位が必要となります。特に技術の部分は大きいです。
リレーショナル・プレーの構造上の長所と短所と解決方法
リレーショナル・プレーは、チーム全体がApoyo de Emergencia(緊急時のサポート)の状態になる必要があり、ボールに寄る性質があります。
この性質が、どのようなメリットデメリットを引き起こすのか?
メリット
ボールサイドに人数が集まりますので、
- 人と人との距離が短くなり、パスがズレにくくなる。
- コントロールしやすいパススピードになる。
- ボールを失った時にボールに素早くアプローチできる。
等のメリットがあります。
デメリット
- 同レーンでのプレーになりやすく、守備側に蓋をされやすくなる。
- そもそも展開する為の人が配置されていないので、ボールサイドへのプレーが多くなる。
デメリットの解決策
- ボールを失った時にトランジションで素早く回収する。
- 質的優位を高めて1対1で負けないようにする。
・ボールに寄っている性質上、ボールを失ってもすぐにアプローチできる距離にいることが多いので、トランジションでボールを奪い返すことができる。
・守備側に意図的に追い込まれて同数でのパス回しとなるので、ボールを失わない高い技術とフィジカルが必要となる。
※参考記事:ドリブルとは?3つのコンドゥクシオンと2種類の技術(レガテ・プロテクシオン)→この記事内の2種類の技術
ゲームを有利に進めるための優位性
リレーショナル・プレーでゲームを有利に進めるために、
- 質的優位
- 数的優位
- 社会的優位
を使っています。
質的優位は、上でも触れたように相手に意図的に誘導されて、蓋をされる状況が多くなるので、どうしても数的同数で相手に対応していかなければなりません。そうした時に質的優位が無ければ簡単にボールを奪われてしまいますので、レガテやプロテクシオンで問題を解決する技術が必要です。
ボールに関与していない選手たちが緊急時のサポートのように自分の担当マークよりボール側に立ち位置をとることで、相手のマークよりも外にボールは出にくいですが、ボール側への人数は優位となります。
こうして簡単にボールを預けれる人を作り、toco y me voy(パス&ゴー)することにより、流動的にスペースを作り、人を入れ替え(ペルムータ:スイッチ)し、スペースを使っていきます。
最後に社会的優位性です。
選手のプレースタイルや利き足等の相性だったり、仲の良さ、コミュニケーションの円滑さ、阿吽の呼吸と言った選手同士の社会性を利用した優位性です。
こうした優位性を駆使することで、よりアドリブ的な好循環のパス交換やドリブル突破が可能となります。
リレーショナル・プレーの総括
リレーショナル・プレーは、アドリブ的であり、見るものを魅了し、驚くような突破の仕方をします。日本のサッカーは、こうした南米のリレーショナル・プレーを源流としていると感じています。
ただし、アドリブ的なので、個人の負担が多くなることや再現性が低く、問題が起きた事に対して、対策を立てにくくなるという問題も発生します。
もちろん立てられないという訳ではありませんが、問題が細かいので、場当たり的になってしまう。
これは、日本の指導現場でも多い問題で、起きたミスや事柄に対して、言及し修正してしまうのです。しかし、それは、細かいことですし、限定的過ぎるので、次は、違う問題が起きてしまう。
その繰り返しになってしまうことが多く見られます。
もちろん、先に触れた
- toco y me voy(パス&ゴー)
- tabela(壁役)
- escadinha(階段:斜めのポジショニング)
- corta luz(囮:スルー)
- tilting(偏り:密集)
- defensive diagonal(逆サイドバックのポジショニング)
- the yo-yo(同レーン同サイドでのボール出し入れ)
を基準に判断基準を設定して、それを基に修正していけば良いのですが、それでもアドリブの部分が多いので難しいでしょう。
ただこのリレーショナル・プレーの構造は、守備側のポジショニングに対して、大きなストレスを与えることは、重要なポイントでもあります。
意図した誘導で蓋をすることができても、流動的な動きに組織的な陣形は崩れてしまうからです。
そして、守備側は、ボールを奪ったとしても、陣形が崩れているためボールの逃げ場所の認知に時間を要してしまいます。
その構造を理解すると、ネガティブトランジションは、多くがプレッシングとなるのではないでしょうか。
こうしたことを考えると、リレーショナル・プレーは、攻防通して理にかなっています。
まとめ
南米のリレーショナル・プレーは、日本のサッカー文化に根差したプレースタイルであり、私たちに馴染み深い特性を持っています。
ピッチを全て使うというよりは、短い距離での人と人との関係性や繋がりを重視し、選手たちのアドリブ性を活かしたスタイルとなります。そのプレーは観客に感動を与えるようなプレーを生み出します。
その一方で、個々の身体的、技術的負担や要求は大きくなり、戦術としての再現性が低いという課題も抱えています。
ポジショナル・プレーとの差は歴然としてはいますが、ポジショナルプレーの事も後日書いていきます。
どちらが良いかというような事を書いていきたい訳ではありません。
この比較を通じて、サッカーにおける戦術的思考を深め、プレースタイルの選択肢を広げる一助となれば幸いです。
読んでいただき、ありがとうございました。